IL MAGO DELL'EPO CONDANNATO
自転車ロード世界選手権をめぐって
久しぶりに自転車ロードレース(とドーピング)の話題。
今週の月曜日からヴェローナで自転車の世界選手権が行われており、最終日の明日がプロのロードレースです。イタリアは、現在年間ランキング2位の“グリッロ”(こおろぎ)ことパオロ・ベッティーニと、今年のジーロで優勝したダミアーノ・クーネゴの2トップ(?)で臨む予定なんですが、アシストとして大きな貢献が期待されていたダリオ・ダヴィデ・チョーニが、UCI(国際自転車連盟)の抜き打ちドーピング検査で引っかかり、出場できなくなってしまいました。ジーロでは2週間に渡ってペタッキのためにファッサ・トレインを引っ張った後、3週目の山岳コースでも驚異的な粘りを見せて総合4位に入るなど、今シーズンは好調だっただけに、アズーリ(イタリア代表はサッカーじゃなくてもみんなアズーリなのです)にとっては痛手です。
とはいえ、血液検査でチェックする4項目のうち、ヘマトクリット値(赤血球濃度)とヘモグロビン濃度の2つが「選手の健康に危険を及ぼす怖れがある既定値」を越えていたとのこと。ひとつでも越えていたらアウトなので、逃げ道はまったくありません。チョーニは9月にヴエルタを完走しているのですが、通常、3週間のステージレースを終えた後だと、ヘマトクリット値は自分の標準値よりも3〜4%は下がるものなのだそうです。にもかかわらずボーダーラインを越えているということは、理屈の上では標準値がボーダーラインよりも5%は上にあるということになってしまいます。中にはそういう特殊な体質の持ち主もいるのですが、その場合はUCIに事前に申告して検査を受け、登録することが必要。もちろんチョーニはそうではありません。したがって、当然ながらEPOの使用が疑われるということになります。ちなみにEPO(エリスロポイエチン)とは、赤血球濃度を高める作用を持つ造血ホルモンの一種で、本来は貧血治療薬などとして使われます。
ところで、「生まれつきヘマトクリット値がボーダーラインよりも高い」特殊な体質の持ち主としてUCIに登録されているのは、プロレーサーでは(たしか)数人だけですが、アズーリのエース、ダミアーノ・クーネゴもその中のひとりです。彼の標準ヘマトクリット値は55〜56だそうで、すでにアマチュア時代の98年からUCIに登録済。痩せた上半身にはまったく似合わない極太の大腿がもたらすパワーだけでなく、この特異体質がもたらす持久力もまた、クーネゴの強さの秘密というわけです。
あしたのレースに向けての話題としては、アズーリのエースどころかメンバーに選出すらされなかったことに怒り、パスポートをプレゼントするからうちの代表として出て欲しいというアルゼンチンのオファーを受け入れたダヴィデ・レベッリンが、残念ながらパスポート取得手続きが間に合わず、出場を断念したというニュースもありました。この春に1週間で北ヨーロッパのクラシックレースを連勝する活躍を見せ、今も年間ランキングでベッティーニを抑えてトップに立つ重鎮を代表から排除したイタリア代表監督フランコ・バッレリーニに対しては、フェリーチェ・ジモンディ、ジャンニ・ブーニョ、フランチェスコ・モゼールといったご意見番たちから批判が集まっていました。まあレベッリン(やシモーニ)はエースじゃなきゃやだと駄々をこねたに違いありませんし、そうなったらチームワークも戦術も何もありませんから、バッレリーニ監督の判断はひとつの見識だとは思います。ただ、アルゼンチンから出場することの是非はさておき、復讐に燃えたレベッリンがどんなレースをするのか楽しみだっただけに、ちょっと残念なニュースではありました。
今日流れた自転車/ドーピング関係のニュースはもうひとつあります。多分こっちの方がずっと重要。90年代後半以来、コンサルタントとして多くの自転車レーサーのフィジカル・コンディショニングを行ってきたミケーレ・フェラーリ医師が、自分の顧客に対してEPOやGh(成長ホルモン)、ステロイドなどの禁止薬物を処方した罪を問われていた裁判で、ボローニャ地裁が懲役1年の判決を下しました。
フェラーリ医師の充実した顧客リストのなかには、かのランス・アームストロングも含まれています。かなりの上顧客であるアームストロングは、この件に関しては一貫して「フェラーリの無実を信じている。私は一度も禁止薬物を処方されたことはない」と言い張って来ました。彼を含めほぼすべての“顧客”が疑いを否定するかばっくれるかする中、ただ1人リスクを背負ってフェラーリ医師に不利な証言をしたのがフィリッポ・シメオニ(現ドミナ・ヴァカンツェ)。「96年にフェラーリのところに行った。練習メニューを組んでくれた時にEPOの話を切り出され、その何ヶ月後かにはGhを使ってはどうかと提案された。パワー系のトレーニングをした後には、回復を早めるためにアンドリオル(アナボリックステロイドの一種)を処方された」というのが、その証言の骨子。
“業界”の不文律である“沈黙の掟”を破りフェラーリ医師を追い込んだシメオニに対して、それによっていたくイメージを傷つけられることになったアームストロングが恨み骨髄、というのはよく知られた話です。雑誌のインタビューでシメオニを大嘘つき呼ばわりして逆に名誉棄損で訴えられたり、今年のツールでも、逃げた先頭グループを追いに抜け出したシメオニを自ら露骨に潰しに行くという、大人げない場面を見せたりしています(この件も裁判沙汰になっている)。一度「神話」になってしまうと、それを守るのもいろいろ大変なようです。
昨日の判決に対するシメオニのコメントは次のようなもの。「この判決はこの世界にも正義が存在することを示してくれた。これまで何年もの間どういうことが起こっていたのかは、誰もが知っていたことだ。私の証言が証拠として認められて嬉しく思う。アームストロングをはじめ多くのレーサー仲間からリンチを受けてきた後だから尚更だよ」。一方アームストロングは、この判決に遺憾の意を表明しながらも、彼自身およびUSポスタルとフェラーリ医師との関係を解消することを、プレスリリースを通じて発表しています。■
Posted: 土
- 10月 2, 2004 at 06:48 午後