木 - 5月 15, 2008ナチスキンがワールドカップを脅かす(2006.03)アーカイヴ#78。「イタリア代表の歩み」シリーズがやっと完結したので、一応ワールドカップつながりとはいえまったく毛色の違う話題で、通常路線に復帰することにします。 3月20日月曜日、いつものように新聞各紙に目を通していたら、イタリア三大日刊紙のひとつ『ラ・レプブリカ』の国際面に、剣呑な見出しを見つけた。
「ワールドカップを火の海にしてやる」ネオナチサポがブラウナウに結集 小見出しには<開催都市での暴動とナチ礼賛行為を準備する極秘集会>とある。ブラウナウは、オーストリアのドイツ国境にある、木工を主な産業とするちっぽけな町だが、歴史上、アドルフ・ヒトラー生誕の地として知られ、ナチストにとっては聖地に等しい場所である。そのブラウナウで19日の日曜日、ヨーロッパ各地のネオナチ/ネオファシスト系サポーターグループの代表者およそ70人が集まり、6月のワールドカップに合わせ、ナチス復活の旗印の下に彼らが連帯して示威行為や破壊活動を行うべく、その合意形成のための極秘集会が持たれた、というのだ。 記事を書いたのは、同紙ミラノ支局社会部のパオロ・ベリッツィ記者。社会部というと、サッカーは門外漢のようにも見えるが、1年ほど前に同僚と共著で、当時ローマ、今はレアル・マドリードでプレーするカルチョ界最大の問題児、アントニオ・カッサーノのバイオグラフィ『Il mio piede destro(俺の右足)』を書いたという経歴の持ち主だ。そのベリッツィ記者が、どういうルートからかこの集会に潜入し、その内容をスクープしたのがこの記事である。 それによれば、ブラウナウの町に林立する木工所のひとつに集まったのは、イングランド(チェルシー、ミドルスブラ)、ドイツ(バイエルン、シャルケ)、オランダ(フェイエノールト)、イタリア(ローマ、ラツィオ、ヴェローナ、アスコリ、トリエスティーナ)、フランス(マルセイユ)、スペイン(レアル・マドリード)の6か国・12クラブのネオナチ/ネオファシスト系グループの代表者。ほぼ全員が「ナチスキン」と呼ばれる極右のスキンヘッズだ。 場所を提供したホスト役は、地元のクラブ、FCブラウナウ(オーストリア2部)を支持するブルドッグスというグループだが、その中にはオーストリア各地から集まったナチスキンも混じっていたとされる。 このブルドッグスは、昨年、町の近くにあるユダヤ人強制収容所跡を訪ね、そこでわざわざナチ式敬礼をした写真を自分たちのウェブサイトに載せて、クラブから絶縁されたといういわく付きのグループ。今年の1月にこの写真の存在(公開されてから1年以上経っていた)をマスコミが取り上げた時、オーストリアでは大きな社会的事件になった。 集まった各国のグループも、この種の武勇伝(?)には事欠かない。フェイエノールトのゴール裏は、ユダヤ系のクラブであるアヤックスと戦う時には、ガス室の音を真似た「ssssssssssssssssssss...」というコールを浴びせることで知られている。チェルシーのゴール裏も、トッテナム(やはりユダヤ系)とのロンドンダービーでは、同じことをするという。ラツィオのゴール裏には、ケルト十字(○と+を合わせた図形)をはじめとするネオファシズムのシンボルが林立しているし、かつては左翼だったローマのゴール裏にも、最近はハーケンクロイツが踊っている。レアル・マドリードのゴール裏にはSurというグループがいるが、これはフランコ派のネオファシストである。シャルケのネオナチ系グループは、過激な活動を見咎められてスタジアムから排斥されている。 ちなみにオーストリアやドイツでは、ナチ礼賛やホロコーストの否定はそれ自体が犯罪行為であり、公の場でナチ式敬礼をして「ハイル・ヒトラー」と叫ぶだけで1年を超える禁固刑を喰らうこともあるという。6月のワールドカップに向けても、FIFA、ドイツ当局ともにこの種の動きには非常に神経質になっており、スタジアムやその周辺でそれが起こった時には、問答無用で現行犯逮捕されることになっているといわれる。 この集会に集まった彼らの目的は、まさにそうしたネオナチ/ネオファシズム弾圧・排斥の動きに対し、ヨーロッパ中の極右サポ勢力を糾合し正面から戦いを挑み、ナチズム復活の狼煙を上げることにある。 叫ばれたスローガンは「ナチズムはドイツで生まれた。だからドイツで再生しなければならない」というもの。具体的なアクションプランとしては、警察隊への襲撃、殲滅すべき敵たるイスラム系テロリスト(ドイツに数多いトルコ人、イスラム系参加国のサポーターのこと)への襲撃、ケルト十字やハーケンクロイツなどナチズム、ファシズム系シンボルを掲げ、ヒトラー総統礼賛とホロコースト否定を謳ったパレード(示威行為)などが挙げられたとされる。もちろん、これらはすべて、法の上では犯罪にあたる非合法の行為だ。 この日、ブラウナウに集まったのは70人に過ぎない。しかし、ヨーロッパ主要国の極右(ネオナチ、ネオファシスト)系サポーターグループの構成員を合わせれば、何千人、いや何万人という数になる。そしてドイツは、ヨーロッパのどの国からも、半日も車を飛ばせば到達できる「地続き」の場所なのである。 現時点でこれ以上の情報はない。確かなのは、この計画が部分的にでも現実のものになれば、ワールドカップの開催都市(スタジアムの中よりむしろ外)で大きな混乱が起こる可能性があるということだ。こんな書き方をすると狼少年みたいだが、だからといって、無視していて済む話ではないことは確かである。今後もアンテナを張っておきたい。■ (2006年3月22日/初出:『El Golazo』連載「カルチョおもてうら」) Posted at 01:33 午前 土 - 5月 10, 2008WC2006 決勝 イタリア1-1<6-4dcr>フランス (2006.07)アーカイヴ#77。「イタリア代表の歩み」シリーズ(?)その12。ついにワールドカップ編が完結です。こうやって振り返るともう遠い昔の話みたいですが、まだ2年前。1ヶ月後に始まるユーロ2008に臨むアズーリは、レギュラー11人中ディ・ナターレを除く10人がワールドカップ組、平均年齢30歳というさらに成熟したチームです。高齢化とかモティベーション不足とかいろいろ不安が囁かれていますが、ぼくはこのユーロでもまた優勝するんじゃないかという気がしています。 1)プレビュー:成熟した大人同士の決戦
「決勝はフランスとやりたい。ロッテルダム(ユーロ2000決勝)とサン・ドニ(フランス98準々決勝)、2つも借りがあるからね」。そう語っていたイタリア主将カンナヴァーロの希望通り、6年ぶりとなる因縁の対決が、ワールドカップ決勝という最高の舞台で実現する。 イタリアはカンナヴァーロに加えてトッティなど4人、フランスはバルテス、トゥラム、ヴィエイラ、ジダンなどの6人が2000年当時からのメンバー。レギュラー組の平均年齢はともに29歳台と、今大会で最も高い部類に属する。この事実が象徴的に示す通り、豊かな経験に裏打ちされた勝負強さを備えた「成熟した大人のチーム」同士の戦いである。 フィジカル能力と集中力の高さを兼備した安定感抜群のディフェンス、トップ下で攻撃を操る世界屈指のファンタジスタを核とする1トップの布陣、無理をして攻撃に人数をかけることなく、攻守のバランスを保ちながら辛抱強く戦い、一瞬の隙を見逃さず一気に勝負をかける老獪な試合運びなど、両チームの共通点は少なくない。 お互い相手を知り尽くしているだけに、オープンに攻め合うスリリングな試合展開にはなりそうにない。むしろ、お互いが真剣を手に睨み合うような、均衡かつ緊迫した心理戦になる可能性が高そうだ。 そういう展開の試合で勝敗を分けるゴールは、往々にして次の3つのパターンから生まれるものだ。すなわち、1)セットプレー、2)個人のスーパープレー、3)意外な伏兵の思わぬシュート。 セットプレーでの得点力はほぼ互角といっていいだろうが、単独で決定的な違いを作り出すことのできるプレーヤーに関しては、前線にアンリとジダンを擁するフランスが一枚上手。一方のイタリアでそれを期待できるのはトッティくらいか。ただし3番目については、攻撃パターンがアンリへのスルーパスとリベリの突破だけに限られているフランスに対して、6試合で10人が得点を挙げているイタリアの方が、可能性がありそうだ。 いずれにしても、実力的にはまったくの互角。後半の早い時間帯までに試合が動かないようだと、長い戦いになるかもしれない。□ 2)試合:イタリア1-1<5-4dcr>フランス(2006年7月9日、ベルリン) 得点:7' ジダンPK(フランス)、19' マテラッツィ 退場:110' ジダン イタリア(4-4-1-1) GK:ブッフォン DF:ザンブロッタ、カンナヴァーロ、マテラッツィ、グロッソ MF:カモラネージ(86' デル・ピエーロ)、ガットゥーゾ、ピルロ、ペロッタ(61' デ・ロッシ) OMF:トッティ(61' イアクインタ) FW:トーニ フランス(4-2-3-1) GK:バルテス DF:サニョル、トゥラム、ガラス、アビダル MF:マケレレ、ヴィエイラ(56' ディアッラ) OMF:リベリ(100' トレゼゲ)、ジダン、マルダ FW:アンリ(107' ウィルトール) 3)レビュー:脇役が勝ち取ったワールドカップ 「脱カテナッチョ」の攻撃サッカーを看板に大会に臨んだアズーリだったが、皮肉なことに、躍進を支えたのは、堅固きわまりないディフェンスだった。最後に迎えた決勝でも、ジダンが操るフランス攻撃陣に押し込まれながら、最後の一線で踏みとどまり、苦しみ抜いての延長PK。結果的には、いい意味でも悪い意味でも、従来からのイメージを裏切らない、いかにもイタリアらしい幕切れとなった。 ただし、これまでと決定的に違ったところがひとつだけある。それは、そのPK戦で5人が5人ともしっかり決め、世界の頂点に立ったこと。しかも、5本すべてがGKに止めようがないシュートという完璧さだった。90年、94年、98年と3回連続でPK負けを喫し、PK戦での勝負弱さには定評があったイタリアからすれば、これはもう画期的なことである。 リッピ監督は振り返る。 「正直言って、PK戦に不安はなかった。私はチャンピオンズリーグの決勝で二度、PK戦を経験している。96年、ローマでアヤックスに勝った時にはほとんど全員が蹴りたがったものだが、2003年、マンチェスターでのミラン戦では、キッカーを5人揃えるのにも苦労した。結果はご存じの通りだ。今回はローマの時と同じだった」 5番手として最後にPKを蹴ったのはグロッソ。R16オーストラリア戦でPKを誘った突破、準決勝ドイツ戦で決めた終了間際の決勝ゴール、そしてこのPKと、国際的にはまったく無名の左サイドバックは、主役級の活躍で優勝への貢献を果たした。 このグロッソも含めて、今回のイタリアの優勝は、脇役が勝ち取った勝利と言ってもいいだろう。MVPを1人挙げろと言われたら、全試合を通じて驚異的なパフォーマンスを見せ、あらゆる危険の目を未然に摘み続けたキャプテンのカンナヴァーロ以外には思いつかない。他にも、ブッフォン、ザンブロッタ、マテラッツィ、グロッソ……。ディフェンダーが勝利のシンボルになるワールドカップというのは、そうそうあるものではないだろう。 もうひとつ、とりわけ印象深いのは、アマチュアから叩き上げて代表の座にまで登り詰めた「雑草」たちの貢献度が高かったことだ。 グロッソはペルージャの小さなアマチュアクラブ(5部リーグ所属)で育ち、25歳までセリエC2(4部リーグ)で過ごした、文字通りの叩き上げ。マテラッツィにしても、やはり5部のアマチュアクラブでキャリアをスタートして下部リーグを渡り歩き、セリエAに定着したのは20代後半になってから。リッピ監督が交代要員として重用したイアクインタも、20歳の時には5部リーグでプレーしていた。2ゴールを決めたトーニが、セリエBとC1で長い下積み時代を過ごしたこともよく知られている。 ユース年代から代表で活躍し、ビッグクラブで主役を張るエリートたちに加えて、こうした叩き上げの雑草がワールドカップという大舞台で決定的ともいえる貢献を果たすところにも、イタリアサッカーの底力の一端が表れていた。□ 4)総括コラム:24年ぶりの栄冠・耐え忍んだ勝利こそが貴い イタリアが24年ぶり4回目の優勝を勝ち取るためには、延長、そしてPK戦という試練が必要だった。 90年イタリア、94年USA、98年フランスと、3大会連続でPK負けを喫しているという輝かしい(?)実績を誇る上に、相手はその98年、そして2年後のユーロ2000で煮え湯を飲まされたフランス。PK戦に至るまでの試合内容も含めて、これ以上ないほどに嫌な巡り合わせだっただけに、それを乗り越えて勝ち取った勝利の歓びはひとしおだっただろう。 準決勝のドイツ戦と決勝のフランス戦。ともにサッカーだけでなく、政治・社会・文化とあらゆる面で歴史的因縁浅からぬ、同じ西欧の宿敵が相手ながら、あらゆる意味で対照的な試合だった。 ドイツ戦のイタリアは、立ち上がりから積極的にボールを支配し、終始自分たちのリズムで試合を進めた。双方ともになかなかシュートまで行かない、拮抗した展開ではあったが、主導権を握っていたのは常にイタリア。ベースになるテクニックの部分で上回っていたがゆえに、安定したボールポゼッションを保ち、辛抱強くチャンスを窺うことが可能だった。 結果的には、延長残り2分にやっとゴールを決め、ギリギリでPK戦を免れる格好になったが、「この試合にもし負けていたら、それほど理不尽なことはなかっただろう」というリッピ監督の試合後コメントの通り、内容的にはイタリアの完勝だった。 ところが決勝のフランス戦は、まったく正反対。テクニックと戦術的秩序の双方で上回るフランスにじわじわと押し込まれ、なかなか自陣からボールを持ち出すことができない。中盤と前線をつなぐ結節点として機能するべきトッティは、運動量の少なさもあって、マケレレ、ヴィエイラという強力なボランチに完全に押さえ込まれ、ボールに触れさせてすらもらえなかった。イタリアは、トッティが交代するまでの1時間、10人で戦っているようなものだった。 マテラッツィの同点ゴールを含め、数少ないチャンスはすべてセットプレーから。流れの中から、バルテスの守るゴールを脅かすシュートを放つことは、120分を通じてたった一度もなかった。意外なことに、1日多く休んだイタリアの方が、先に疲れて足が止まり、時計が進むにつれて、守り切るだけの戦いになった。ヴィエイラの負傷退場、そしてジダンの衝撃的なレッドカードがなければ、残り10分、準決勝でのドイツと同じ運命になった可能性は、かなり高かったと言っていいだろう。 だが、結果はご存じの通り。「脱カテナッチョ」の攻撃サッカーを看板に大会に臨みながら、最終的にはお家芸ともいえる専守防衛でゴールを死守し、しかも苦手とするPK戦で勝利を掴んだのだから、皮肉なものである。 優勝から一夜明けたイタリアの新聞各紙は、もちろん24年ぶりの「カンピオーニ・デル・モンド」(世界チャンピオン)をもたらしたアズーリの礼賛一色。その中で目立ったのは、「この勝利は耐え忍んだ末に勝ち取ったものだからこそ価値がある」という論調である。オープンに戦った乱戦の末に勝ち取った4-3よりも、虎の子の1点を最後まで守り切って手に入れた1-0の勝利に、より大きな価値を見出すイタリアのメンタリティが、こんな時にも顔を出す。 10日夜、帰国したアズーリをローマの官邸に迎えたロマーノ・プロディ首相のスピーチも、その意味で非常に示唆に富んだ内容だった。 「最後の2試合は本当に厳しい戦いでした。国民の誰もが、あなた方アズーリと一緒に終わりなき緊張と困難に耐え続けた。そして最後に、勝利の歓びとチームスピリットの素晴らしさを共に噛みしめることができた。結果というものは労力と汗と熱意を費やして初めて勝ち取れるものだということ、最後の最後まで諦めず戦い抜かなければならないこと、そして、ひとりひとりの高い能力だけでなく、全員が結束して力を合わせなければ決して勝利は勝ち取れないことを、あなた方アズーリはこれからイタリアを担う若い世代に教えてくれました。そのことに心から感謝します」□ Posted at 11:09 午後 木 - 5月 8, 2008WC2006 準決勝 イタリア2-0ドイツ(2006.06)アーカイヴ#76。「イタリア代表の歩み」シリーズ(?)その11。ワールドカップ編も準決勝まで来ました。次回でとりあえずシリーズは完結するので、それ以降は従来通りランダムなアーカイブに戻ります。 1)プレビュー:骨肉のライバル
組み合わせに恵まれたとはいえ、USA94以来、3大会ぶりのベスト4進出を果たしたイタリア。準決勝の相手は宿敵ドイツである。 宿敵、というのは、サッカーの上だけの話ではない。第一次大戦では敵国同士。第二次大戦では当初同盟国として戦いながら、1943年9月にファシズム政権が崩壊すると、ドイツがイタリアに占領軍を投入、それをレジスタンスが20ヶ月に渡る抵抗運動を戦って撃退するという、文字通り骨肉の戦いを演じた歴史があるのだ。 もちろんピッチ上の因縁も浅くはない。70年大会準決勝では、延長120分で4-3という「20世紀最高の試合」を演じ、82年大会決勝では「タルデッリの雄叫び」で有名な2点目を含め3-1と、記憶に残る名勝負が2つ。そのほか、62年、78年には、0-0の引き分けを演じている。 もうお気付きの通り、実はイタリアはまだ、ワールドカップでドイツに負けたことがない。過去の美しい思い出は、宿敵ドイツを破った記憶と重なっているのである。 とはいえ、今回はドイツが開催国。ドルトムントでの準決勝は、アズーリにとって完全なアウェー戦になる。3月にフィレンツェで親善試合を戦った時には、内容、結果(4-1)ともにイタリアの圧勝だったが、今度はそう簡単に行くはずはない。 客観的に見れば、開催国として今や国民の圧倒的な支持と熱狂を追い風にしている上、試合を重ねる毎にチームとしての成熟度を高めてきたドイツの優位は動かない。その中でイタリアに有利な材料を上げるとすれば、まずは、ここまで実質無失点の堅固なディフェンスということになるだろうが、そこに、フィジカルコンディションの優位も加えておきたい。 ドイツは、初戦からメンバーをほとんど固定して戦ってきた上に、準々決勝ではアルゼンチンと120分の死闘を演じている。しかも控えの戦力は、レギュラー陣に取って代われるほどに高いとは言えない。中3日で迎えるこの準決勝で、どこまで主力のコンディションが回復しているか不安が残る。 一方のイタリアは、ここまで5試合、一度として同じスタメンをピッチに送らず、しかもリッピ監督は意図的に選手をローテーションし、疲労を避けながら戦ってきた。5試合で控えGK2人を除く20人が一度はピッチに立っており、450分フル出場しているのは、ブッフォン、カンナヴァーロ、ペロッタの3人のみ。いずれもチームで最もコンディションがいい選手であり、蓄積疲労の不安はない。故障明けでなかなか調子が上がらなかったエースのトッティも、ついに本来の閃きを取り戻しつつある。 試合ごとに目まぐるしく変わってきたシステムも、どうやらトッティをセカンドトップに置く4-4-1-1で固まったようだ。「どんな相手に対しても3人のアタッカーをピッチに送る」というリッピ監督の宣言がどこに消えたのか知らないが、攻守のバランスを考えれば、この布陣が最も安定していることは事実。 例によって浮き沈みの激しい歩みを見せてきたアズーリだが、この決戦には万全の体勢で臨むことができそうだ。それが吉と出るか凶と出るかは、明日の夜のお楽しみである。□ 2)試合:イタリア2-0dts ドイツ <2006年7月4日、ドルトムント> 得点:119' グロッソ(イタリア)、120+1' デル・ピエーロ(イタリア) イタリア(4-4-1-1) GK:ブッフォン DF:ザンブロッタ、カンナヴァーロ、マテラッツィ、グロッソ MF:カモラネージ(91' イアクインタ)、ガットゥーゾ、ピルロ、ペロッタ(104' デル・ピエーロ) OMF:トッティ FW:トーニ(74' ジラルディーノ) 3)レビュー:伝説まであと1試合 専守防衛の受動的なサッカーではまったくないが、口が裂けても「攻撃サッカー」とは呼べない。まったく焦ることなく腰を据えてボールを支配し、攻守のバランスを常に保ってリスクを最小限に抑えながら、辛抱強くチャンスを待つ。そして、延長戦に入ってから勝負をかけ、最後の最後でゴールをもぎ取る。 アズーリを12年ぶりとなるワールドカップ決勝に導いたのは、「カテナッチョ」とはまったく異なる、しかしイタリア伝統のメンタリティを濃厚に反映していることには変わりがない、究極のバランスサッカーだった。 リッピ監督がピッチに送った布陣は、ウクライナ戦と同じ、1トップのトーニの下にトッティを置き、その背後を4MFと4DFのフラットな2ラインで固めた4-4-1-1。攻撃サッカーの看板として、2年間かけて築き上げた4-3-1-2システムは、もはや影も形もない。しかしイタリアはそれと引き換えに、これ以上ないほど堅固なディフェンスと、中盤の数的優位を土台とする試合の主導権を手に入れた。この布陣が今大会におけるアズーリの最終形であることは間違いない。 最初の90分、特に後半は、均衡と言うよりは膠着と言った方がずっとよく似合う展開だった。ボールポゼッションこそイタリアが57%と圧倒的していたものの、最終ラインと中盤が自陣内で交わすパスが多く、効果的な攻撃から敵陣深くに攻め入る場面は、決して多くなかった。一方のドイツは、ボールを奪うと前線の運動量を生かして早いタイミングで縦パスを引き出し、カウンター気味にイタリア陣内深くに攻め込む。 ドイツがスロットルの大きな開閉を繰り返すのに対し、イタリアは巡航状態。決定機の数こそ2回ずつと変わらなかったが、主審が延長戦突入を告げる笛を吹いた時点で余裕があったのは、明らかにイタリアの方だった。しかもこの時点で、リッピ監督の手元はまだ2枚、交代のカードが残っていた。 延長開始と同時に、走力のあるFWイアクインタを右サイドハーフの位置に投入。すぐにそのイアクインタの突破から、ジラルディーノがポストを叩く決定機が生まれる。その1分後には、ザンブロッタのミドルがクロスバーを直撃。 ついに足が止まったドイツがPK戦に持ち込もうという思惑をあらわにする中、リッピ監督はデル・ピエーロという最後のカードを切る。この時点でピッチ上には、ジラルディーノ、トッティ、イアクインタ、デル・ピエーロと、FWが4人も並んでいた。守りを固めて逃げ切るどころか、残り20分で絶対に決めようという態勢である。PK戦になればなったで、この4人+ピルロというのはイタリアのベストメンバーだ。万全の采配だった。 実際をいえば、1-0のゴールを決めたのはDFのグロッソだったし、もしPK戦になったとしてもイタリアが勝っていたかどうかはわからない。しかし、内容的には、イタリアが勝つべくして勝ったと言い切れる試合だった。 組み合わせに恵まれたイタリアにとっては、この試合が今大会最初の「修羅場」だった。それを説得力ある形で乗り切ったことで、さらなる自信と成熟を手に入れたことは間違いない。伝説まであと1試合、である。□ (2006年7月2-4日/初出:『El Golazo』) Posted at 10:24 午後 土 - 5月 3, 2008WC2006 準々決勝 イタリア3-0ウクライナ(2006.06)アーカイヴ#75。「イタリア代表の歩み」シリーズ(?)その10。ワールドカップ編も第5弾まで来ました。これを含めてあと3回で一段落です。今回は、格下ウクライナを楽々下した準々決勝。こうしてみると、準決勝まで強敵と当たることなくこぎつけたわけで、ワールドカップで勝つためには運も大事だということがよくわかります。 1)プレビュー:「勝って当然」の試合
10人で戦いながら、終了間際のPKで何とかオーストラリアをはねのけたイタリアと、スイスと我慢比べのような接戦を演じた末に、PK戦で勝ち上がってきたウクライナ。R16での戦いが楽なものではなかったという点は同じだが、この準々決勝がそれぞれの国にとってどんな意味を持つかということになると、比較にならないほどの違いがある。 ウクライナにとっては、ベスト8に勝ち残ったこと自体が奇跡のようなもの。ヨーロッパでは常に強国のひとつだった旧ソ連以来の伝統を誇るとはいえ、独立後はこれが初めてのワールドカップである。優勝を狙う強豪イタリア相手の準々決勝には、結果に対する一切のプレッシャーがない、純粋なチャレンジャーとして臨むことができる。 一方のイタリアにとっては、これは明らかに「勝って当然」の試合。12年ぶりのベスト4、あわよくばファイナリストという見通しが、すでに眼前に広がっている。だが、オーストラリア戦のプレビューでも触れた通り、このチームには、地力で劣る相手に劣勢に立たされると冷静さを失い、本来の力を発揮できなくなる傾向がある。格下ウクライナが相手だからといって、簡単な試合にはならないだろう。 ただ、ウクライナはタイプとして、イタリアが苦手にする系統のチームではないことも事実である。嫌なのは、前線から積極的にプレッシャーをかけてくるフィジカルな相手だ。ウクライナのように、引いて守ってカウンターを狙ってくる相手のあしらい方は、DNAにしっかり刻み込まれている。しかも、そのカウンターを担うべきシェフチェンコは、故障明けでまだ本調子とはいえない状態だ。 トッティがやっと復調の兆しを見せ始めたことも含め、地力で優るイタリア優位は動かない。試合はほぼ間違いなく、アズーリが主導権を握って攻め込み、ウクライナは受けに回る展開になるだろう。 ウクライナに勝機があるとすれば、前半を0-0で凌いで、後半に勝負を持ち込んだ時か。焦り始めたイタリアが、攻撃に人数をかけて前がかりになったところを逆襲し、1-0のジャイアントキリングを決める、というのが、最も美しいシナリオだろう。その確率は非常に低いと言わざるを得ないが。□ 2)試合:イタリア3-0ウクライナ <2006年6月30日、ハンブルク> イタリア(4-4-1-1) GK:ブッフォン DF:ザンブロッタ、カンナヴァーロ、バルザーリ、グロッソ MF:カモラネージ(68' オッド)、ガットゥーゾ(77' ザッカルド)、ピルロ(68' バローネ)、ペロッタ OMF:トッティ FW:トーニ 得点:6' ザンブロッタ(イタリア)、59' トーニ(イタリア)、69'トーニ(イタリア) 3)レビュー:墓穴を掘ったブロヒン ウクライナのブロヒン監督は、イタリアの2トップ(トーニ、トッティ)をマンツーマンでマークし、その背後にルソルをリベロとして余らせるという、自身の現役時代のように古くさい戦術でイタリアの攻撃を凌ごうと目論んだ。ところが皮肉なことに、まさにこのマンツーマンの守備戦術が、ウクライナを窮地に陥れることになる。 前半6分にイタリアが先制した場面、中盤でトッティとワンツーを交わした後ドリブルで持ち上がり、そのままミドルシュートを叩き込んだのは、左SBのザンブロッタだった。敵陣のど真ん中を20mも誰にも邪魔されず攻め上がることができたのは、前線から引いてきたトッティ、ライン際に流れたカモラネージに、それぞれのマーカーが引っ張られて、ゴール前に広大な「空白地帯」が生まれたおかげ。ゾーンで守っていればできるはずのない穴だった。 タイトなマンマークでイタリアの攻撃を封じ、カウンターに望みを託して1-0の勝利を狙おうというブロヒン監督の目論見は、たったの6分間で脆くも崩れてしまう。早くも前半20分、DFスヴィデルスキを下げて、攻撃的MFヴォロベイを右サイドに投入し、流れを変えようと試みたが、守り倒そうという気持ちで試合に入ったチームが、気持ちを切り替えるのは簡単ではない。サイドを使ってシンプルに素早く攻めるという本来の戦い方を取り戻すためには、ハーフタイムというブレイクが必要だった。 後半開始からの10分あまりは、ウクライナが積極的な攻勢で何度かイタリアゴールを脅かした。結果的には、イタリアの逆襲に遭って後半14分に決定的な2点目を喫してしまうのだが、最初からこういう戦い方をしていれば、もう少しいい勝負ができたかもしれなかった。 ワールドカップも、一発勝負の決勝トーナメントに入ってくると、チームを率いる指揮官は、何よりもまず敗北への不安や恐怖と戦わなければならない。ハイリスク・ハイリターンの戦い方を貫くよりも、リスクを抑える手堅い方向に采配が向かうのは、ある意味で仕方がないことだ。しかし、この試合のブロヒン監督のように、あるいは1-0の残り30分でリケルメを下げ、同点にされた後の攻め手を失ったアルゼンチンのペケルマン監督のように、弱気な采配が命取りになることもある。では、勇気を持って積極的に戦い抜けばそれでいいのかといえば、オフサイドトラップの失敗ひとつでリードをふいにし、結局フランスに敗れてしまったスペイン(内容的には今大会で一番いいサッカーを見せていた)のような例もあるから難しい。 イタリアのリッピ監督も、「どんな相手に対しても3人のアタッカーをピッチに送る」という宣言はどこに行ったのか、この試合でピッチに送った布陣は、トーニを1トップに据えた[4-4-1-1]だった。やはりアズーリが最後に頼るのは攻撃力ではなく、DNAに刻み込まれた守備力のようである。□ (2006年6月28-30日/初出:『El Golazo』) 4)コラム:次のドイツ戦が正念場 優勝を狙う強豪国の中で、決勝トーナメントの組み合わせに最も恵まれたイタリア。R16ではオーストラリア相手に、後半を10人で戦うことを強いられた末、最後の最後で「棚ボタ」のPKをもらって辛勝と、危ない橋を渡ったが、準々決勝のウクライナ戦は、3-0と文句なしの完勝だった。 グループリーグから通算5試合で、8得点・1失点。その1失点も、アメリカ戦でザッカルドが決めた冗談のようなオウンゴールであり、まだ相手には1ゴールも許していない。 リッピ監督はかねてから「どんな相手に対しても3人のアタッカーをピッチに送り、常に自分たちが主導権を握って戦うことを目指す」と宣言して、攻撃サッカー路線を打ち出してきたが、蓋を開けて見れば、イタリアの前進の原動力となっているのはやはり、攻撃力ではなく、堅固きわまりない守備力の方である。 事実、この5試合の歩みを振り返ってみると、イタリアの布陣と戦い方は、多少のリスクがあっても攻撃を優先するそれから、攻守のバランスを重視したリスクの少ないそれへと、徐々に修正が施されてきていることがわかる。 最初の2戦は2トップの下にトッティを置いた4-3-1-2だった。ガーナ戦では2-0と幸先のいいスタートを切ったが、不用意にカウンターを浴びる危険な場面が思ったよりも多かった。続くアメリカ戦は、前線からの激しいプレスに一方的に押し込まれ、両軍合わせて退場者3人という乱戦を招いた末に引き分け止まり。 2トップ+トップ下というこのシステムは、攻撃に人数をかけられるという長所がある反面、陣形が縦に間延びしやすく、ボールを奪われた時にカウンターを浴びやすい、またトップ下が守備参加をサボると、中盤が数的不利に陥って相手に押し込まれやすい、という欠点も持っている。 トップ下のトッティが故障明けで運動量に欠けるおかげで、長所よりも欠点が強調されたこの2試合を見て、リッピ監督は当初からの構想だった4-3-1-2を諦めざるを得なくなった。GL最後のチェコ戦は、1トップの下にトッティとカモラネージを並べた4-3-2-1にシステムを変更、マテラッツィのゴールで先制した後は、カモラネージを中盤に下げて4-4-1-1と言った方がいい布陣で手堅く戦った。 R16のオーストラリア戦では、何とトッティをスタメンから外し、前線をトーニとジラルディーノの2トップ、デル・ピエーロを左サイドハーフに据えた4-4-2(一般的には4-3-3という表記が多いが、デル・ピエーロは実質MFとしてプレーしていた)。そしてウクライナとの準々決勝は、トーニとトッティの2トップを縦に並べた[4-4-1-1]だった。 「どんな相手に対しても3人のアタッカーをピッチに送る」という宣言は、今となっては空証文に過ぎない。リッピ監督は、DF4人、MF3人、FW3人という布陣を前提にメンバーを招集したため、4-4-1-1という布陣を敷くと、FWがだぶつく一方でMFが駒不足になってしまうという問題もある。 だがアズーリはそれと引き換えに、4DFと4MFがコンパクトな2ラインを自陣に敷き、相手にほとんど攻撃のスペースを与えない堅固な守備、そして前線で守備の負担から解放され、持ち前のテクニックと創造性を存分に発揮して攻撃を演出するトッティという、攻守両面にわたる大きな武器を手に入れた。おそらくこれが、今大会におけるアズーリの最終形になるだろう。 現在のイタリアの戦い方は、決して「カテナッチョ」、つまり専守防衛の受動的なサッカーではない。しかし、無理をせずに攻守のバランスを保ち、辛抱強くチャンスを待つという意味で、イタリアサッカー伝統のメンタリティを色濃く反映した戦い方であることは確かだ。 我々はすぐに「攻撃的/守備的」という二分法でサッカーを語りがちだが、今のイタリアは、そのどちらでもない絶妙なバランスを見出し、チームとして成熟を果たしつつあるように見える。今大会出場国の中では、フランスと一番似たポジションかもしれない。 次の相手は開催国ドイツ。ホームの大観衆のバックアップを受けた、若くて勢いのあるチームに、成熟したアズーリがどう応えるかが見物である。□ (2006年6月30日/初出:『Yahoo! スポーツ・WC2006』) Posted at 10:49 午後 WC2006 ラウンド16 イタリア1-0オーストラリア(2006.06)アーカイヴ#74。「イタリア代表の歩み」シリーズ(?)その9。ワールドカップ編の第4弾は、マテラッツィの退場で10人になり、ロスタイムにトッティのPKでやっと勝利をもぎ取ったラウンド16のオーストラリア戦です。 1)プレビュー:ヒディンクのリアリズム
「GLでは、モダンで攻撃的なオーストラリアを見せることができた。ブラジル相手にも決定機を何度か作ったからね。でもイタリアはそう簡単に隙を見せてはくれないだろう。リアリズムが必要だ」 ヒディンク監督の率いるチームが、格上の相手と戦う時の「リアリズム」がどんなものかは、イタリアもよく知っている。PSVアイントホーフェンが、ここ2シーズン続けてチャンピオンズリーグでミランをどれだけ苦しめたかは、まだ記憶に新しい。なにしろ、ホーム&アウェー計4試合で、PSVは2勝1分1敗と勝ち越しているのだ。 そこで、そのもう一方の当事者であるミランのアンチェロッティ監督に、オーストラリアの戦い方を予想してもらった。 「非常に守備的な布陣をとることは間違いない。トッティ、ピルロにはマンマークを貼り付けてくるだろう。イタリアにサッカーをさせないことを最優先に、フィジカルにモノを言わせて潰しに来るはずだ。イタリアにとってはストレスのたまる戦いになるだろう。最も必要なのは、おそらく忍耐力だ」 イタリアは、1位で勝ち上がったとはいえ、GL3試合の内容は決して褒められたものではない。堅固な最終ラインに支えられた守備こそ安定しているものの、肝心の攻撃は精彩を欠いている。オーストラリアと同様、フィジカルが強くアグレッシブに当たってくるアメリカには、苦戦の末引き分け止まり。 実力的に、イタリアが明らかな優位にあることはいうまでもない。しかしイタリアには、地力で劣る相手に劣勢に立たされると冷静さを失い、本来の力を発揮できなくなる傾向がある。オーストラリアが「リアリズム」に徹してイタリアの攻撃の芽を詰み続け、ナーバスな精神状態に追い込むことができれば、意外な展開から勝機が巡ってくるかもしれない。4年前の韓国がそうだったように。□ 2)プレビューコラム:トッティと心中してもいいのか? ビッグトーナメントを戦うイタリア代表には、ファンタジスタのポジション争いを巡る論争がつきものだった。バッジョかデル・ピエーロか?デル・ピエーロかトッティか?デル・ピエーロかカッサーノか? ところが今回に限って、その手の論争は開幕前も開幕後も、影も形もない。カッサーノは招集段階で早々と脱落。デル・ピエーロは、故障明けで復調途上のトッティの穴を埋めて活躍するはずが、ユースチーム相手の練習試合ですら1対1の突破をしくじり続ける体たらくで、FW陣の序列でも最下位まで落ち込んでしまった。理屈の上では、シーズン中の出場時間が少なくバッテリー残量は十分だし、キャリア最後のワールドカップに賭ける意欲も並々ならないはず。この不調は何とも理解不能である。 だがそれ以上に問題なのは、リッピ監督が全幅の信頼を寄せてきたファンタジスタ、トッティの調子が期待したように上がってくれないことだ。オーストラリア戦を前にして、アズーリの周辺ではじまった論争は、ファンタジスタのポジション争いどころか、ファンタジスタ、つまりトッティをこの先も起用し続けるべきか、それとも外すべきかというもの。トッティと心中することになってもいいのか、というわけだ。 2月半ばの足首骨折から、100日あまりのブランクを経て復帰したトッティだが、ワールドカップ開幕時点のコンディションは「70%」(本人の弁)にとどまっていた。しかしリッピ監督は、勝負どころでの復調に賭けるためには、ピッチに立って試合勘とリズムを取り戻してもらう以外にないという判断から、あえて初戦からスタメンに起用し、チャンスを与え続けてきた。 ところがこの3試合を通して、そのプレーに期待した進歩はまったく見られない。運動量が少なく、マークを外してフリーでパスを受けられない上に、怪我を怖れてかフィジカルコンタクトで身体が逃げる傾向があるため、どうしてもボール喪失数が多くなる。90分フル出場したチェコ戦の後半、遠めから強いシュートを蹴らずにループシュートを繰り返し試みた(すべて無残な失敗に終わった)のは、筋力が十分に戻っていない証拠だ。 ここから先は、負ければそれでおしまいの一発勝負。チームのお荷物になっているエースを、もしかして復調するかもという希望だけでピッチに送り続ける余裕はもはやない。オーストラリアが挑んでくるに違いない肉弾戦に、トッティは耐えられるのか。エースの復活に賭け、トッティを核としたチーム作りを曲げなかったリッピ監督が、ついに大きな決断を迫られている。□ 3)試合:イタリア1-0オーストラリア<2006年6月26日、カイザースラウテルン> イタリア(4-4-2) GK:ブッフォン DF:ザンブロッタ、カンナヴァーロ、マテラッツィ、グロッソ MF:ペロッタ、ガットゥーゾ、ピルロ、デル・ピエーロ FW:ジラルディーノ、トーニ 得点:90+5' トッティ(イタリア・PK) 退場:50' マテラッツィ 4)レビュー:カテナッチョの真髄 「今回のアズーリは、僕がプレーしてきた中では間違いなく、一番攻撃的なチームだ。でも僕自身は、イタリアサッカーの伝統的な価値はディフェンスにあると思っているんだ。どんな困難に陥っても辛抱強く戦い、最後までゴールを守り抜くことができるチームは、世界にもそう多くはない。ワールドカップみたいなギリギリの戦いでは、2点、3点リードして試合を終えることの方がずっと少ない。1点のリードを最後まで守り切る力がないチームは、決してタイトルを勝ち取ることはできないんだ。攻撃的なチームでも、最後のところでは、イタリアの伝統的なメンタリティが必要ってことだよ。いくらカテナッチョと揶揄されようがね」 開幕の1ヶ月ほど前にインタビューしたアズーリのキャプテン、ファビオ・カンナヴァーロの言葉である。マテラッツィの退場で後半のほとんどを10人で戦わなければならなかったこのオーストラリア戦は、まさにアズーリが「イタリアサッカーの伝統的な価値」を見せつけた試合だった。 トッティをベンチに置きデル・ピエーロをスタメンに起用したイタリアは、11対11で戦った前半45分を通して、ピッチをワイドに使った攻撃の組み立てから再三決定機を創出するなど、これまでの3試合とは見違えるようなサッカーを見せた。そこにマテラッツィのレッドカード。好事魔多しとはまったくこのことである。 しかし、そこからのディフェンスはスペクタクルだった。最前線にFWひとりを残し、残る8人は自陣深くに秩序の整った陣形を敷いて相手を迎え撃つ。オーストラリア攻撃の鍵を握るFWヴィドゥカは、密着マークを続けるカンナヴァーロが常に先手を取ってクサビの縦パスをカット、ほとんどボールに触らせない。サイドに開いたボールには、必ず2人が飛び出して対応し、クロスを上げさせないだけでなく、しばしば挟み込んでボールを奪い取る。数少ないピンチもGKブッフォンが安定したセービングと電光石火の飛び出しですべて防いだ。ボールはほとんどオーストラリアが持っているのだが、得点の気配は最後までまったく漂わなかった。 劣勢に立たされて守りに守った後、唯一と言っていいカウンターのチャンスを生かしてゴールを奪い1-0で勝つ。しかも最後にもらったPKは、主審からの「プレゼント」。これぞカテナッチョの真髄である。攻撃サッカーを装ったところで、DNAまでは裏切れないということか。 実際、前線に3人のアタッカーを配した攻撃的な布陣で大会に臨んだアズーリだが、ここまでのところその攻撃に関しては、どちらかといえば期待を裏切る内容にとどまっている。しかしディフェンス堅固さにはまったく文句のつけようがない。なにしろ4試合でまだ失点は実質ゼロなのである(アメリカ戦の1点は、「失点」じゃなくザッカルドの「得点」)。これで攻撃陣まで調子が上がってきたら、このイタリアは一体どんなチームになるのだろうか。□ (2006年6月24-26日/初出:『El Golazo』) Posted at 01:38 午前 水 - 4月 30, 2008WC2006 グループリーグ#3 イタリア2-0チェコ(2006.06)アーカイヴ#73。「イタリア代表の歩み」シリーズ(?)その8。ワールドカップ編の第3弾は、グループリーグ首位通過を決めたチェコとの第3戦。グループリーグの総括もついています。 1)プレビュー
引き分けでもベスト16が決まるイタリアと、自力で勝ち抜けるためには勝利が条件のチェコ。双方の利害が完全に相反するガチンコ勝負である。 チェコのブルックナー監督にとって頭が痛いのは、攻撃陣の枯渇である。コラーが初戦で肉離れを起こし、その代役ロクヴェンツも出場停止。明るい材料があるとすれば、アキレス腱を痛めているバロシュに復帰の可能性が出てきたことか。 いずれにせよ、2列目の攻撃参加を最大の武器とするチェコにとって、前線でタメを作るポストプレーヤーの不在は由々しき事態。それを補うとすれば、ラインを高く保って前線からプレスをかけるか、引き気味の布陣からカウンターを狙うかのどちらかしかない。平均年齢の高いチェコが、前者を90分続けることは難しいだけに、後者を基本に、勝負どころと見た時間帯ではリスクを顧みず一気に前に出る、メリハリのある戦い方をしてくるだろう。 一方のイタリアは、USA戦で退場になったデ・ロッシの欠場に加え、太腿を削られたペロッタも出場が微妙と、中盤の再構築を迫られている。しかし、リッピ監督の迷いはむしろ、故障明けでまだベストとはいえないトッティの起用法にある。ここ2試合を見る限り、運動量が求められるトップ下では1時間が限界。そこで、システムを[4-3-1-2]から[4-4-2]に変え、2トップの一角に上げる構想も浮上している。ただ、予選から基本としてきたシステムにここに来て手を入れるという「賭け」には、それなりのリスクも伴う。指揮官の判断が注目される。 初戦に楽勝して順調なスタートを切りながら2戦目で躓いた両チーム。一度は手に入れたかに見えた自信が揺らいでいるだけに、緊張と不安が勝った精神状態で試合に臨むことになるだろう。そこから、どちらが先に自分のリズムを掴んで試合の主導権を握るかが、勝負の最初の分かれ目になるはずだ。□ 2)試合:イタリア2-0チェコ<2006年6月22日・ハンブルク> イタリア(4-4-1-1) GK:ブッフォン DF:ザンブロッタ、ネスタ(17' マテラッツィ)、カンナヴァーロ、グロッソ MF:カモラネージ(74' バローネ)、ガットゥーゾ、ピルロ、ペロッタ OMF:トッティ FW:ジラルディーノ(60' インザーギ) 得点:26' マテラッツィ(イタリア)、87' インザーギ(イタリア) 3)マッチコラム:とりあえず勝ち上がったが…… 立ち上がりから相手に押し込まれて主導権を奪われる苦しい展開の後、前半半ば過ぎに数少ないセットプレーから先制ゴールをもぎ取る――。ここまでの展開は、イタリアにとって5日前のアメリカ戦とまるで瓜二つだった。 違ったのはここから先。しかしそれは、イタリアが変わったというよりも、対戦相手のチェコが明らかに意気消沈し、それまでのアグレッシブな姿勢を失ってしまったことによる部分が大きいように見えた。 最前線に仁王立ちしてボールをキープし、チームの押し上げを助けるコラーの故障欠場で、FWはアキレス腱炎から復帰したバロシュの1トップ。スピードが持ち味でDFを背負ってのプレーが苦手なストライカーは、前線を走り回ってパスを引きだそうとするが、カンナヴァーロのタイトなマークに遭い、前を向いてボールを持つことがまったくできない。チェコは、前線の唯一の駒だったバロシュの消耗とともに攻め手を失って行った。 しかし、1点リードした上、前半終了間際にポラクが退場したため、後半45分を11対10で戦うという優位を手にしたイタリアの振る舞いも、決して褒められたものではなかった。変な余裕が出たのか、ペースを大幅にスローダウン、試合を“眠らせ”にかかる。 だが残り10分ならともかく、後半の早い時間帯から1-0で満足する姿勢は、決してポジティブなものではあり得ない。案の定、逆にネドヴェドのミドルシュートを浴びるなど、やらずもがなのチャンスを何度か与える羽目になった。 結果的には、後がなくなったチェコが最後の力を振り絞って攻撃に出たその裏を突き、途中出場のインザーギが2-0のゴールを決めたとはいえ、あまりに消極的な後半のゲームマネジメントは、成熟というよりもむしろ未熟さを感じさせるものだった。 R16の相手はオーストラリア。グループ1位抜けでブラジルとの対戦を回避した上に、準々決勝でも好調スペインの回避が間違いないとあって、マスコミは早くも「ベスト4までは高速道路」といった楽観的な観測を囃し立てている。まさか、4年前のR16でヒディンクに苦杯を喫したことを忘れたわけではないだろうが……。□ (2006年6月20-22日/初出:『El Golazo』) 4)グループリーグ総括:アズーリ中間考査 終わってみれば勝ち点7でグループEを首位通過。 欧州・南米の強豪国が揃ってベスト16に進出するという波乱の少ない大会であることを考えれば、GL通過は最低限のノルマ以前、と言っていいかもしれない。イタリアも含め、決勝までの7試合を念頭に置いて準備を進めてきた国々にとって、ここは、まだ折り返し点にすら達していない場所なのである。本当の戦いが始まるのはこれからだ。 というわけで、決勝トーナメントを目前に控えたこの機会に、アズーリ主力選手のここまでの戦いぶりを、イタリアのマスコミではおなじみの(日本でもだいぶ浸透してきた)採点表方式でチェックしておくことにしよう。採点は10点満点で6点が及第点である。 ◇ブッフォン(GK):6.5 3試合を通じて、飛び出し、セービングとも全くノーミス。今大会随一の安定度。スーパーセーブがないのは、単にDF陣がスーパーだから。 ◇ザッカルド(右SB):5 初戦は無難にこなすも、2戦目に信じられないオウンゴールを決め、3戦目はスタメン落ち。もともとリザーブ要員だったことを考えれば、本来の場所に戻っただけともいえる。戦術的には申し分ないが1対1の守備スキルに大きな課題。 ◇ネスタ(CB):6 最初の2試合は実力通りの活躍で敵FWを封じ込めるも、シーズン中から引きずる内転筋痛が再発し、第3戦途中でリタイア。まずは戦列復帰から。 ◇マテラッツィ(CB):6.5 故障退場のネスタに代わってチェコ戦のピッチに立ち、10分後にはヘッドで値千金の先制ゴール。ラフプレーやファウルでチームに損害を与えなかった点も○。 ◇カンナヴァーロ(CB):7.5 3試合を通してカウンターを浴びる頻度が高かったにもかかわらず、敵FWにほとんどシュートチャンスを与えず。危険察知能力、スピード、1対1の強さと駆け引きの上手さ。33歳にして今なお世界の五指に楽々入るCB。 ◇グロッソ(左SB):5.5 初戦で守備に不安を残したことで、2戦目はベンチに格下げ。3戦目は先発したものの、まだ持ち味のメリハリある攻撃参加は見られず。次戦以降の成長に期待。 ◇ザンブロッタ(左右SB):6 直前合宿での肉離れから復帰し、まだアイドリング状態。攻守のバランスを意識した堅実なプレーに徹する。ここから調子を上げて、強力なオーバーラップを炸裂させるか。 ◇ペロッタ(MF):6.5 ピークにあるコンディションを生かして献身的に動き回り、中盤にダイナミズムをもたらす。アメリカ戦でハードタックルを受け太腿を痛めるも、3戦すべてに出場。 ◇ピルロ(MF):7 中盤の底でメトロノームとして機能。攻撃のリズムを作りだす。SBの攻め上がりが増え、パスコースが広がれば、司令塔としての戦術センスがさらに際立つはず。シーズン終盤のもたもたが嘘のように、フィジカルコンディションも上々。 ◇デ・ロッシ(MF):4 初戦で一発レッド相当のファウルを見逃してもらったにもかかわらず、2戦目では肘打ちを繰りだし退場、4試合の出場停止を受ける。攻守両面に高い才能を発揮し、今後10年イタリアの中盤を担うと評されるタレントだが、このラフプレー癖が直らなければ未来はない。 ◇ガットゥーゾ(MF):6.5 開幕直前に痛めた太腿の肉離れから復帰したばかり。まだ完調とはいえなかったアメリカ戦では、退場したデ・ロッシの穴を埋めチームに魂を吹き込む。勝つか負けるかの決勝トーナメントでは、精神的支柱としての活躍を期待。 ◇トッティ(FW):5 2月の足首骨折から復帰して、まだコンディションは75%。試合を重ねるごとに感覚を取り戻しつつあるとはいえ、運動量の少なさ、ラストパスの精度にまだまだ課題が残る。ここからの復調度合いが、イタリアがどこまで前進できるかの鍵を握る。 ◇トーニ(FW):5 1トップでのプレーに慣れているため、なかなか2トップの感覚が掴めず、ジラルディーノとのシンクロニズムは今一歩。献身的に動いてポストプレーを繰り返すも、その疲労からかシュートの局面では明晰さを欠く。チェコ戦はスタメン落ち。 ◇ジラルディーノ(FW):5.5 トーニよりコンディションがいい分、敵CBとの駆け引きで疲れを誘う下働きでは貢献度高し。流れの中での動きはまだ不満が残るが、チェコ戦でセットプレーから決めたゴールが、ブレイクのきっかけになるか。 ◇イアクインタ(FW):6.5 運動量と戦術的有用性を買われてFW3番手に昇格。ガーナ戦で早速ゴールを決める。リードしている時の守備固めに投入されカウンターを狙うのが仕事か。 ◇インザーギ(FW):6.5 イアクインタにも先を越され「第4のFW」にとどまるも、チェコ戦で途中出場した途端、すかさずゴールを決めて決定力の高さをアピール。決勝Tでは、スーパーサブとして活躍を期待。リードされている時にはやっぱりこの人でしょ。 ◇デル・ピエーロ(FW):5 音信不通。 (2006年6月24日/初出:『Yahoo! スポーツ・WC2006』) □ Posted at 02:24 午前 日 - 4月 27, 2008WC2006 グループリーグ#2 イタリア1-1USA(2006.06)アーカイヴ#72。「イタリア代表の歩み」シリーズ(?)その7。ワールドカップでの歩みを1戦1戦振り返って行こうという趣向(『エル・ゴラッソ』に寄せたプレビューとレビュー、コラムがメイン)の第2弾は、グループリーグ第2戦のUSA戦(1-1)。ザッカルドの素晴らしいオウンゴールとデ・ロッシのエルボーでほとんど自滅しかけた試合でした。 1)プレビュー
初戦でガーナを2-0と下し、幸先のいいスタートを切ったイタリアだが、目標であるグループリーグ1位抜け(R16でブラジルを回避するため)を果たすには、続くアメリカ戦でも勝ち点3確保が必須条件。今大会におけるアズーリの運命を占う上では、むしろこの試合が大きな鍵となる。 アメリカは、フィジカル能力と中盤のテクニックが強みだったガーナとは正反対の、戦術的秩序と組織力で戦うチーム。アレーナ監督はイタリアの戦い方をしっかり研究し、対策を立ててくるはずだ。 試合の流れを決めるのは、おそらく中盤の攻防だろう。ガーナ戦では中盤の底から自在に攻撃を操ったピルロも、今度はそうそう自由にはさせてもらえないはず。イタリアが主導権を握るためには、早いタイミングでトップ下のトッティや前線の2トップにボールを供給して、チーム全体を押し上げることが必要だ。ピルロがマークされている場合には、両サイドバックがどれだけ攻撃の組み立てに絡めるかがポイントになる。 ガーナ戦で交代直前にハードなタックルを受け、影響が心配されたトッティだが、診断は単なる打撲。練習にも問題なく復帰しており、アメリカ戦でもトップ下から攻撃を操ることになる。故障で戦列を離れていたザンブロッタはスタメン出場が濃厚、ガットゥーゾも順調に回復しており、チーム状態は明らかに上向きである。 ガーナ戦の前半に見せた積極的な攻撃サッカーで主導権を握り、最短距離でベスト16進出を決めたいところだ。□ 2)プレビューコラム:大きな分岐点 ガーナ戦の勝利は、アズーリにとって様々な意味で「解放」と「安堵」をもたらすエポックだった。 5月初めに勃発し今なお続く「カルチョ・スキャンダル」の雑音は、ワールドカップに向けた準備期間を通して、チームを悩ませ続けた。4年に一度のビッグイベントが目前に迫っているというのに、マスコミから浴びせられる質問は、スキャンダルのことばかり。サッカーに集中することがひどく困難な状況だったことは想像に難くない。 その一方では、本番が近づくに従って、ザンブロッタ、ネスタ、ガットゥーゾと中心選手に故障者が続出。さらに、長期欠場明けで調整中のトッティの穴を埋める「第3のアタッカー」として期待されていたデル・ピエーロが理解し難い不振に陥るなど、ガーナ戦を目前に控えたチーム状況は、とても良好とはいえなかった。 スキャンダルのプレッシャーと主力の戦線離脱。日韓2002、ユーロ2004と、2大会続けて早期敗退を喫してきた嫌な記憶も頭をよぎる。キックオフを前にしてアズーリを取り巻く空気は、マスコミの論調も含めて、楽観よりも悲観、期待よりも不安の方が色濃かったと言っても過言ではない。 ところが蓋を開けてみれば、「コンディションは70%」(本人の弁)というトッティをトップ下に据えた布陣をピッチに送りながら、リッピ監督が掲げる「脱カテナッチョ」という看板通り、時には前がかりに過ぎるほどの攻撃的なサッカーを見せて、2-0の完勝。ハーフタイムにはブラッターFIFA会長から「ここまでの今大会で一番いいサッカー」というお世辞をもらうほどで、グループリーグの1巡目が終わった時点では、アルゼンチン、スペインと並んで、最もいいスタートを切ったチームに数えられる、順調な船出となった。 翌日のマスコミは、試合前の悲観論から一転して、アズーリ礼賛、リッピ礼賛のオンパレード。これまで何となくつきまとってきた暗い影からやっと解放されて、ワールドカップらしいお祭りムードがアズーリの周辺にも、そしてイタリアにも浸透しつつある。そのどさくさに紛れて、ユヴェントスサポの国会議員が「アズーリがワールドカップで優勝したら、スキャンダルの容疑者に恩赦を適用すべきだ」などと言い出すところが、この国のしょうもないところなのだが……。 とはいえ、次の相手アメリカは、ガーナほどやわな相手ではない上に、初戦でチェコに敗れて追い詰められた“手負いの虎”だ。しかも会場のカイザースラウテルンは、欧州最大の米軍キャンプがある「ドイツで一番アメリカンな町」。スタジアムの空気は間違いなくアウェーである。4年前の日韓大会、初戦でエクアドルに完勝しながら、2戦目でクロアチア(やはり初戦を落としていた)に苦杯を喫した「前科」もあるだけに、はしゃぎ過ぎが禁物であることは言うまでもない。 一気に決勝トーナメント進出を決めて弾みをつけるか。再び不安とプレッシャーの淵に落ち込むのか。大きな分岐点がアズーリを待っている。□ 3)試合:イタリア1-1USA<2006年6月15日、カイザースラウテルン> イタリア(4-3-1-2) GK:ブッフォン DF:ザッカルド(54' デル・ピエーロ)、ネスタ、カンナヴァーロ、ザンブロッタ MF:ペロッタ、ピルロ、デ・ロッシ OMF:トッティ(35' ガットゥーゾ) FW:トーニ(61' イアクインタ)、ジラルディーノ 得点:22' ジラルディーノ、27' ザッカルド(OG) 退場:28' デ・ロッシ 4)マッチコラム:試合へのアプローチを誤ったアズーリ 2日前のプレビューで「一気に勝ち上がりを決めて弾みをつけるか。再び不安の淵に落ち込むのか。大きな分岐点がアズーリを待っている」と書いたらこれである。 初戦の勝利がもたらした解放と安堵に加えて、直前にチェコがガーナに敗れたこともあってか、戦前のアズーリ周辺はすっかり楽観的な空気に支配されていた。試合直前、通路で入場を待つチームの表情は、リラックスし過ぎという印象すら与えたほどだ。 だが、対するアメリカは、この試合を落とせば敗退が決まるという崖っぷち。前線からがんがんプレスをかける武闘派路線で臨んできた。この勢いに対抗するレベルまでテンションが高まっていなかったイタリアは、一方的に自陣に押し込められてしまう。 22分にセットプレーで先制するしたたかさを見せはしたものの、その後も試合の主導権はアメリカのものだった。ザッカルドの笑うしかないようなオウンゴール(27分)とデ・ロッシのあまりに愚かな肘打ち(28分・レッドカード)、若手2人が犯した失態は、メンタル的に戦闘態勢に入り損ねたアズーリの焦燥を象徴していた。 デ・ロッシの退場劇は、世界に対するイタリアのイメージをまたも貶める結果になっただけでなく、アズーリの今後の歩みにとっても小さくないダメージをもたらすことになるだろう。ラフプレーに厳しいFIFAの姿勢から考えて、少なくとも3,4試合の出場停止は免れない。さらにここからの試合、審判の視線がイタリアに厳しいものになることも間違いないだろう。 リッピ監督は試合後、「初戦に費やした心身のエネルギーを回復し切れていなかった。多少の予兆はあった」と語った。開幕前にのしかかった巨大なプレッシャーの影響は、初戦ではなく2戦目に表れたというわけだ。 勝ち上がりには、次のチェコ戦で引き分け以上が最低条件。グループ1位にならないとR16でブラジルが待っているとか、そんな贅沢を言っている場合ではなくなってしまった。□ (2006年6月15-17日/初出:『El Golazo』) 5)コラム2:メンタルの弱さが出たアメリカ戦の躓き ガーナとの初戦を2-0の勝利で飾り、順調なスタートを切ったかに見えたイタリアだったが、続くアメリカ戦で躓いた。 ファウルぎりぎりの激しい当たりを武器に肉弾戦を挑んできたアメリカに気圧され、立ち上がりの20分はほとんど守勢一方。ボールを奪っても中盤ですぐに潰されて、敵陣に攻め込むことができない。 前半22分、やっと攻め込んだところで得たFKから、ジラルディーノが頭で押し込んで1-0とリードした時には、これで流れを手元に引き寄せたかに見えた。ところが、その後も試合の主導権は、一歩も引かずに戦うアメリカが握り続ける。 27分には、相手のクロスをクリアしようとしたザッカルドが、信じられないキックミスでオウンゴールを献上して1-1。その1分後には、デ・ロッシがヘディングの競り合いでアメリカのFWマックブライトに肘打ちを食らわせ、一発退場。アメリカの気迫溢れるプレッシャーを受けて、思ったようにプレーできずナーヴァスになっていた若手2人が、冷静さを失って精神面の弱さをさらけ出した格好だった。 この試合に限らずイタリアには、地力で劣る相手に劣勢に立たされると、神経質になったり焦燥感に駆られたりして冷静さを失い、本来の力を発揮できなくなる傾向がある。強豪相手だとそんなことはないのだが、「勝つのが当然」と見られていた試合が思うように行かないと、この傾向が顕著に表れる。4年前の韓国戦、2年前のユーロ2004のデンマーク戦がいい例だ。 幸運なことにこの試合では、闘志が空回りしたアメリカが11対10の数的優位を生かし切れなかったばかりか、逆にハードすぎるタックルを連発して2人が退場。後半開始直後には、イタリアがひとり多い10対9の状況になった。しかし、一度噛み合わなくなった歯車を元に戻すことは難しい。リッピ監督は、DFザッカルドを外してFWデル・ピエーロを投入し、3-3-3という前がかりな布陣で勝利を目指したものの、決定的なチャンスをほとんど作ることができないまま、1-1で試合を終えた。 リッピ監督は試合後、「初戦に費やした心身のエネルギーを回復し切れていなかった。初戦を迎えるまでに受けてきた大きなプレッシャーをはね返すのは、本当にエネルギーのいることだったから」とコメントしている。 前回、「イタリアで勃発したスキャンダルのおかげで、マスコミの興味も分散するから、アズーリは必要以上に騒がれず落ち着いて準備ができるだろう」と書いたが、実際にはこれは思い違いもいいところだった。大会前の合宿に詰めかけたマスコミは、ワールドカップそっちのけで、選手たちにスキャンダル関連の質問を浴びせ、合宿の話題はそれ一色になってしまったからだ。 4年に一度しか巡ってこない、キャリアにとって最も重要なチャンスを目前に控えながら、それとはまったく関係のない雑音に悩まされ続けた選手たちのストレスがどれだけのものだったかは、想像に難くない。そのストレスの中で目の前の試合に集中し、大きな難関である初戦の壁を乗り越えるために使った心身のエネルギーは、想像以上に大きかったようだ。 事実、ガーナ戦に勝ってからアメリカ戦を迎えるまで、アズーリの周辺を支配していたのは、それまでの緊張と不安から一転して、楽観的でリラックスした空気だった。リッピ監督も選手たちも、そしてそれを取り巻くマスコミも、スキャンダルという亡霊からやっと解放された安堵に、無意識のうちに浸りすぎていたのかもしれない。 この引き分けによって、2試合を終えたイタリアの勝ち点は4止まり。一番のライバルであるチェコがガーナに敗れるという波乱があって、勝ち残りをめぐるグループEの状況は、かなり複雑なものになった。イタリアは、引き分け以上なら無条件で勝ち残り(ガーナがアメリカに勝たなければ引き分けでも1位抜け)、負けた場合は、ガーナがアメリカに勝った場合(敗退)を除き、得失点差、総得点に運命が委ねられることになる。□ (2006年6月18日/初出:『Yahoo!スポーツ・WC2006』) Posted at 01:48 午前 水 - 4月 23, 2008WC2006 グループリーグ#1:イタリア2-0ガーナ(2006.06)アーカイヴ#71。「イタリア代表の歩み」シリーズ(?)その6。ここからは、ワールドカップでの歩みを1戦1戦振り返って行こうという趣向です。『エル・ゴラッソ』に寄せたプレビューとレビュー、コラムがメイン。まずはグループリーグ初戦のガーナ戦(2-0)から。 1)プレビュー
イタリアは、一次合宿で肉離れを起こしたザンブロッタに加え、スイスとの親善試合で太腿を打撲したガットゥーゾも戦線離脱、さらにネスタも内転筋痛で出場が微妙と、本番直前の大事な時期になって故障者が続出している。 それ以上の誤算は、前線の一角を担うべきデル・ピエーロが予想外の不振に陥っていること。リッピ監督は、当初構想していたスタメンから、多ければ4人を入れ替えざるを得ない状況に立たされている。 金曜日に地元のユースチームと行った練習試合では、レギュラー組と控え組をミックスした2つのチームで前後半を戦った。リッピ監督は 「あと2日間練習を見て、前日にスタメンを決める」と語っており、まだメンバーの顔ぶれはもちろん、採用するシステムにも迷いを残している様子。アズーリの周辺から、一次の楽観的な空気はすっかり消え去った。 数少ない好材料は、故障明け間もないトッティの順調な復調。デル・ピエーロの不調もあり、初戦からスタメンに名を連ねる可能性もある。 対するガーナは、故障者もなく順調に準備を進めている。前線とディフェンスはやや難ありと見られるものの、アッピアー、エッシェン、ムンターリという、フィジカルとテクニックを高いレベルで兼ね備えたMF陣はイタリアにとって脅威。デュイコヴィッチ監督はトッティの出場を予想してか、4バックの前にヴァイタルエリアをケアする守備的MFを置く4-1-3-2システムを試しているようだ。 ポテンシャルからいえば明らかにイタリア有利の試合だが、ガーナがアグレッシブな出足でイタリアの中盤に圧力をかけ、組み立てを寸断するようだと、試合の展開はわからなくなる。しかし攻防のポイントはむしろ両サイド。ガーナの中盤は中央では強力だが、システム上サイドにはスペースを残すことになる。オッド、グロッソの両SBがそこを突いて敵陣に進出し、頻繁に攻撃に絡むことができれば、主導権はイタリアの手に収まるはずだ。□ 2)プレビューコラム:デル・ピエーロの憂鬱 「もし代表に呼んでもらえなかったら?リッピの車のタイヤに穴を空けて、大事な船も沈めてやる。それで、その辺の壁に『リッピはホモだ』って書きまくってやる」 これは今年の1月、あるラジオ番組に出演したデル・ピエーロが冗談で口にしたセリフである。 95年に21歳でデビューして以来、イタリア代表通算74試合・26得点。しかし、肝心のビッグトーナメントでは、2度のワールドカップと3度のユーロ、いずれも期待を裏切り続けてきたことは周知の通り。3度目の、そして最後のワールドカップに賭ける意気込みがどれほどのものかは、容易に想像がつく。 23人枠を争うライバルと目されていた野生児カッサーノは、1月のレアル移籍後も復調の兆しが見られず早々と脱落。ドイツ行きの切符はすんなりと手に入った。しかも、アズーリ攻撃陣の大黒柱トッティは、足首骨折による長期離脱から復帰したばかりで、本人いわく「コンディションは70%」。トッティに無理をさせたくないリッピ監督の構想では、少なくとも初戦、第2戦は不動のレギュラーが約束されていた。 ところが、本番を目前に控えた先月末、スイス、ウクライナとの親善試合で、デル・ピエーロはまったく精彩を欠いたプレーしかみせることができなかった。シーズン中ベンチを暖めることが多かったがゆえに、まだバッテリーの残量は十分あるはずなのだが、蓄積疲労以前に、パワーやスピードの点でコンディションが落ちている印象だ。 当初、オランダやドイツを破った時と同様、トーニとジラルディーノの“Wセンターフォワード”をデル・ピエーロが左にオフセットした位置から支える、変則的な4-3-3システムでガーナ戦に臨むことを考えていたリッピ監督も、構想の見直しを強いられている。 金曜日の練習試合で試したシステムは、前後半とも2トップ+トップ下の4-3-1-2。トッティのスタメン起用を想定していると見るのが、最も自然だろう。現地に詰めている番記者たちの予想は、本命がトッティをトップ下に置いた4-3-1-2、対抗が中盤に右からカモラネージ、ピルロ、デ・ロッシ、ペロッタと並べた4-4-2。いずれにせよデル・ピエーロはベンチスタートという見方が強い。このチャンスを逃すと、長年にわたる代表での不完全燃焼に落とし前をつける機会は、もう巡ってこないかもしれないのだが……。□ 3)試合:イタリア2-0ガーナ<2006年6月12日、ハノーファー> イタリア(4-3-1-2) GK:ブッフォン DF:ザッカルド、カンナヴァーロ、ネスタ、グロッソ MF:ペロッタ、ピルロ、デ・ロッシ OMF:トッティ(56' カモラネージ) FW:トーニ(82' デル・ピエーロ)、ジラルディーノ(64' イアクインタ) 得点:40' ピルロ、83' イアクインタ 4)マッチコラム:攻守のバランスに課題を残すイタリア 「脱カテナッチョ」を宣言し、自らが主導権を握ってゴールを狙う攻撃サッカーを打ち出してこのワールドカップに臨んだイタリア。大事な初戦で何より重要だった“結果”を勝ち取ったことは、何よりも大きな収穫である。 立ち上がりこそガーナの勢いに押されたものの、中盤の底に位置するピルロを起点に、サイドにボールを散らしてリズムを作れるようになって以降、試合の主導権は一貫してイタリアのものだった。 MFペロッタのダイナミックな走り込みやSBグロッソのオーバーラップからクロスを折り返し、何度となくチャンスを作り出す。序盤はボールに触る機会が少なかったトッティも、相手との間合いを掴んだ後は、得意のダイレクトパスによる素早い縦の展開で攻撃にアクセントをつけた。 前半の45分間だけで、シュート12本(うち枠内8本)、コーナーキック11本。得点こそ40分にピルロが決めた1点だけにとどまったものの、攻撃のボリュームに関しては十分に及第点をつけられる出来だったといえる。 ただしその一方で、ディフェンス面には少なからず課題が残った。両サイドバックやペロッタがしばしばボールのラインを越えて前線に進出するため、ボールを失った時にはしばしば、数的不利の状況が生まれている。中盤にだけはトップレベルのプレーヤーが揃っているガーナは、ボールを奪うたびにスムーズなパスワークでプレスをかわし、一気にイタリア陣内に攻め込んで危険な状況を作りだした。被シュート数は前後半合わせて14。これだけ頻繁にカウンターを喰らうイタリアを見たのは初めてである。 ガーナの攻撃陣がシュートの精度を著しく欠いたせいで、本当に危ない場面は皆無といってよかったが、相手のレベルが上がってくると、無失点で90分を戦い切ることは難しそうだ。次のアメリカ戦、続くチェコ戦に向けて、リッピ監督が攻守のバランスをどのように修正してくるか、注目したいところだ。□ (2006年6月10-12日/初出:『El Golazo』) Posted at 02:45 午前 火 - 4月 22, 2008ドイツ・ワールドカップ前夜のイタリア代表(2006.05)アーカイヴ#70。「イタリア代表の歩み」シリーズ(?)その5は、ワールドカップまであと1ヶ月を切った段階での、イタリア代表をめぐる状況をまとめたテキスト。23人の招集メンバーが発表になった時にそれを伝えた原稿もオマケでつけておきます。次回からは、ワールドカップでの歩みを1戦1戦振り返って行く予定。全試合、『エル・ゴラッソ』にプレビューとレビューを寄せたので、それをメインに。 本番まであと1ヶ月あまりとなった今も、イタリアは“ワールドカップモード”に入っていない。
5月初めに勃発し、おそらくカルチョ史上稀に見る一大疑獄に発展することは必至と見られる「モッジ・スキャンダル」(文末の注参照)が、サッカー界のみならず世間一般までを騒然とさせていることも、大きな理由のひとつではある。 しかしもうひとつ、今回は珍しく、アズーリをめぐって世論をまっぷたつに割るような論争の種が見当たらない、という事実も大きい。ひとことでいうと“燃料”が足りないのだ。 これまでイタリアでは、ワールドカップやユーロを目前にすると、必ず何かしらの大論争が沸き起こるのが常だった。最もよくあるのは、招集メンバーを巡る議論だ。フランス98と日韓2002、過去2回のワールドカップでは、「ロベルト・バッジョを代表に呼ぶか呼ばないか」が、世論を盛り上げる最大の“燃料”だった。2年前のユーロ04でも、ジョヴァンニ・トラパットーニ監督(当時)が、パルマで売り出し中だったアルベルト・ジラルディーノを招集しなかったことを巡り、激しい論争が展開されたものだ。ところが今回はそれがない。 マルチェッロ・リッピ監督は、以前から「招集メンバーについて、私ははっきりした考えを持っている。迷いはほとんどない」と明言していた。事実、23人のうち17-18人には、もう何ヶ月も前から当確サインがついている。 ただ実のところ、残るいくつかのポストを巡っては、大きな議論を呼び起こしかねない火種もないわけではなかった。リッピは、もはや肉体的な衰えは明らかだと誰もが見ていたクリスティアン・ヴィエーリ(モナコ)について、常々「チームに欠かせない重要な選手。故障していなければ23人に入ってくる」と語る一方で、フィリッポ・インザーギ(ミラン)の招集には積極的ではなかった。また、ユーロ04で唯一明るい材料をアズーリにもたらしたアントニオ・カッサーノも、レアル・マドリード移籍後の活躍次第では、再び代表候補に浮上してくる可能性があった。リッピは、表向きは「カッサーノのようなタレントは重要な存在」と言いながら、実際にはそのトラブルメーカーぶりを嫌っており、シーズン前半にはローマのスパレッティ監督に「このまま試合に出さないでおいてくれると、私の悩みがひとつ減るので有り難い」と漏らしていたらしい。 ところが幸か不幸か、リッピご執心のヴィエーリは、膝の故障で手術を受けることになり、代表招集の可能性が自動的に消滅してしまった。一方、インザーギはシーズン後半に復帰するとゴールを量産してマスコミを味方につけ、5月初めの代表候補合宿でも「ボクは監督の決定に従わないエゴイストなんかじゃない」とアピールして、23人のメンバー入りをほぼ確実にした。 カッサーノはカッサーノで、移籍したレアルでも控えの座から抜け出すことができず、スペインのマスコミからデブ呼ばわりされて嘲笑を浴びるなど、復活のきっかけを掴むことができないまま。リッピも「彼とはもう話すべきことを話した」と、今回は招集の可能性がないことをはっきりと匂わせている。 最終メンバー決定を巡る最大の火種になるはずだった2人が、共に“自滅”してしまったことで、リッピが迷う材料も、世間が議論を戦わせるための“燃料”も、ほとんど消えてしまったというわけだ。 2月19日に左足首を骨折して、本番に間に合うかどうか復帰が危ぶまれていたエースのフランチェスコ・トッティ(ローマ)も、順調な回復を見せており、5月10日のコッパ・イタリア決勝で10分間とはいえピッチへの復帰を果たしている。「コンディションはまだ50%」というのが本人の弁だが、開幕まではあと1ヶ月あり、招集は確実である。 さて、イタリアといえば“カテナッチョ”、つまりがっちり守りを固めてカウンターでもぎ取った虎の子の1点を守り切る守備的なサッカーが伝統、というのが、世界的な通り相場になっている。しかしリッピ監督は、2年前の就任当初から「相手に合わせるサッカーはしない。常に主導権を握って自分たちのサッカーをするチームを目指す」と“脱カテナッチョ路線”を打ち出してきた。昨年9月には「どんな相手に対しても3人のアタッカーを起用する。今や、強豪国はどこもそうしている。イタリアがそれをしない理由はない」と明言、これまでのアズーリとははっきりと異なる、攻撃的な“前輪駆動”のチームを作り上げた。 リッピのこの路線に対して、楽なグループで格下との対戦が続いたワールドカップ予選の間は、マスコミの間で賛否両論があったことも事実だ。世論に最も大きな影響力を持つ国営放送局RAIのオピニオニスト、ジョルジョ・トザッティは当時、次のような警鐘を鳴らしていた。 「格下相手ならいいが、強豪相手に3トップは前がかりに過ぎる。アズーリは中盤にもピルロ、カモラネージという攻撃志向の強い選手を配しており、守備的なMFはガットゥーゾひとり。これでブラジルの攻撃を食い止められるのか。4-4-2の方がずっとバランスがいいのではないか」 しかしこうした、“勝つ”ことよりも“負けない”ことを重視するイタリアサッカー伝統のメンタリティに根ざした保守的な慎重論も、11月にアウェーでオランダを3-1で、3月にはドイツをホームで4-1と下し、しかもそのスコア以上に内容的に、非常に説得力のある試合を見せたことで、すっかり影を潜めた感がある。いずれの試合でもアズーリは、立ち上がりからボールを支配して主導権を握り、決定機をものにしてリードを奪った後の後半も、最後まで受けに回ることなく、攻撃的な姿勢を貫いて勝利をもぎ取った。オランダ戦後の会見で、指揮官はこう語ったものだ。 「手強い相手だった。しかし我々は、攻め込まれてもすぐに押し返し、最後まで防戦一方になることなく戦い切ることができた。勝ったことはもちろんだが、それ以上に、どんな相手とでも攻撃的なスピリットを持って戦うことができるという自信を手に入れたことに満足している。もちろん、過信は禁物だがね」 トラパットーニ時代には、引き分けではなく勝利が必要とされる試合で、1点先制して優位に立ちながら、あまりに早く追加点の可能性を放棄して守勢に回った揚げ句、土壇場で失点を喫してすべてをふいにしてしまう――という形で敗退を喫するのがイタリアだった。だが、少なくともここまでの戦いぶりを見る限り、リッピが率いる現在のアズーリは、その限界を乗り越えたように見える。 日韓02、ユーロ04と、2大会続けて不甲斐ない敗退を喫しているだけに、イタリア国民がこのワールドカップにかける期待は大きい。そしてリッピは、その期待から目を背けることなく、率直にこう語る。 「優勝候補の筆頭は誰が見てもブラジルだ。しかし我々も、アルゼンチン、ドイツ、フランス、イングランドと共に、優勝を狙えるレベルにある。少なくとも、ブラジルを含めてどの国とも、互角に戦うことができると確信している。これは過信などではなく、シンプルなリアリズムだ。私が怖れているのは、怪我だけだ」 冒頭で取り上げた「モッジ・スキャンダル」は、ワールドカップに赴くイタリア選手団の団長を務めるはずだったサッカー協会副会長のインノチェンツォ・マッツィーニ、そして会長のフランコ・カッラーロの辞任という、のっぴきならぬ事態までもたらしているのだが、その影響が何らかの形でアズーリに及ぶと見る向きは、今のところ明らかな少数派である。というよりもそれは、このスキャンダルをアズーリやワールドカップとは切り離しておきたい、という願望の表れであるように見える。 5月15日の最終メンバー発表を前にしたマスコミと世論は、今のところ期待と楽観に満ちている。最近よく引き合いに出される次のようなエピソードが、今の気分を最もよく表しているかもしれない。 70年メキシコ大会に始まって、82年スペイン大会、94年アメリカ大会と、アズーリは12年ごとにワールドカップの決勝を戦っている。この計算で行けば、今度のドイツ大会でも……。 注)トリノ、ナポリ、ローマの検察局による、電話傍聴を含む内偵捜査により、ユヴェントスのゼネラルディレクター、ルチアーノ・モッジが、審判や中小クラブの会長と癒着して、ユーヴェに有利な状況を作りだすよう圧力をかける「モッジ・システム」と呼ばれる人脈をサッカー界に張り巡らせ、隠然たる影響力を行使していたことが明らかになった。 (2006年5月12日/初出:『STARsoccer』) イタリア代表:予想通りの23人 5月15日午後4時30分、マルチェッロ・リッピ監督は、イタリア代表23人の最終メンバーと、怪我など不慮の事態に備えたリザーブメンバー4人、計27人を発表した(リストは文末)。 顔ぶれは発表前から予想されていた通りで、サプライズはまったくなかったといっていいだろう。リッピ監督は「どんな相手に対しても3人のアタッカーをピッチに送って戦う」と、攻撃的な布陣で大会に臨むことをかねてから明らかにしている。今回選出されたメンバーも、基本的には4-3-3(4-3-1-2)の各ポジションに2人ずつ、という原則に基づいた構成になっている。MFが6人と標準からすると少なく、FWが6人と逆に多くなっているのもそのためだ。 リッピ監督の構想の中には当初、ヴィエーリ(モナコ)、カッサーノ(レアル・マドリード)という2人のFWも入っていた。ミランでほとんど出場機会を得られず、冬のマーケットでモナコに移籍したヴィエーリは、もはや衰えが目立つという評価が一般的だが、リッピの評価は高く、招集の意向をはっきりと表明していた。しかし、モナコに移籍してからも故障がちで、招集できるコンディションではなかった。 一方のカッサーノは、2年前のユーロ2004で活躍したのを最後に、この2シーズンはピッチ上よりも、ピッチの外でのトラブルメーカーぶりばかりが目立っていた。レアルへの移籍で心機一転を図れれば、代表復帰の目も十分にあったが、活躍らしい活躍ができず、地元のマスコミからデブ呼ばわりされて笑いものにされる始末。まずは、持てる実力をコンスタントに発揮できる環境を作ることが先決だろう。 このふたりが候補からも外れ、代表に呼ぶ、呼ばないが大きな議論の種になるような選手がいなくなったこともあり(ロベルト・バッジョも引退したことだし)、今回の代表選考は、近年になく波乱の少ないものになった。 予想されるレギュラーの顔ぶれも、ほぼ固まっている。 GK:ブッフォン DF:ザンブロッタ、ネスタ、カンナヴァーロ、グロッソ MF:カモラネージ(ガットゥーゾ)、ピルロ、デ・ロッシ FW:トーニ、ジラルディーノ、デル・ピエーロ(トッティ) 前線に関しては、左足の骨折から復帰したばかりのトッティが、どこまでコンディションを取り戻せるかがポイント。中盤は、上に挙げた4人のうちピルロを除く3人が、2つのポストを争う形になるだろう。 今、イタリアサッカー界は、ユヴェントス絡みの「モッジ・スキャンダル」で大騒ぎになっており、代表の話題も霞んでいる感がある。しかしこの状況は、見方によってはプラスだ。マスコミの興味が分散する分、必要以上に騒がれず落ち着いて大会に臨む準備ができるからだ。 戦力的には、優勝を狙えるだけのクオリティを備えている。守りに入って墓穴を掘った日韓2002、ユーロ2004の失敗を繰り返さなければ、アズーリが大会の主役になる可能性は十分にある。 GK:ブッフォン(ユヴェントス)、ペルッツィ(ラツィオ)、アメリア(リヴォルノ) DF:ザンブロッタ(ユヴェントス)、ネスタ(ミラン)、カンナヴァーロ(ユヴェントス)、グロッソ(パレルモ)、ザッカルド(パレルモ)、バルザーリ(パレルモ)、マテラッツィ(インテル)、オッド(ラツィオ) MF:カモラネージ(ユヴェントス)、ピルロ(ミラン)、ガットゥーゾ(ミラン)、デ・ロッシ(ローマ)、ペロッタ(ローマ)、バローネ(パレルモ) FW:トッティ(ローマ)、トーニ(フィオレンティーナ)、デル・ピエーロ(ユヴェントス)、ジラルディーノ(ミラン)、インザーギ(ミラン)、イアクインタ(ウディネーゼ) リザーブ:デ・サンクティス(GK・ウディネーゼ)、ボネーラ(DF・パルマ)、マルキオンニ(MF・パルマ)、セミオーリ(MF・キエーヴォ) ■ (2006年5月16日/初出:『El Golazo』) Posted at 11:59 午後 月 - 4月 21, 2008イタリア、オランダに続きドイツも圧倒(2006.03)アーカイヴ#69。「イタリア代表の歩み」シリーズ(?)その5は、ワールドカップを3ヶ月後に控えた2006年3月、フィレンツェで行われた親善試合ドイツ戦の短いレビュー。開始7分後にはすでに2-0、あとは流して結局4-1という圧勝でした。こんなに強くていいのか、というよりも、ドイツがこんなに弱くて大丈夫か、という気持ちになったのを覚えています。その印象は本大会のグループリーグ初戦でもまったく変わらなかったわけですが、最終的にはリアリズム方面に修正を重ねて、ベスト4までたどり着くことになります。レーヴ監督になってからの2年間は、ちゃんと試合を見る機会が一度もなかったのですが(イタリアでは他国の代表戦はめったに放送されません)、ユーロではどんなチームになっているのか。ドローも悪くないし、隠れた優勝候補かもしれないという予感(根拠薄弱)がしているのですが。 「今日はイタリアにいい勉強をさせてもらった。これだけ経験豊富なチ |