WC2006 ラウンド16 イタリア1-0オーストラリア(2006.06)アーカイヴ#74。「イタリア代表の歩み」シリーズ(?)その9。ワールドカップ編の第4弾は、マテラッツィの退場で10人になり、ロスタイムにトッティのPKでやっと勝利をもぎ取ったラウンド16のオーストラリア戦です。 1)プレビュー:ヒディンクのリアリズム
「GLでは、モダンで攻撃的なオーストラリアを見せることができた。ブラジル相手にも決定機を何度か作ったからね。でもイタリアはそう簡単に隙を見せてはくれないだろう。リアリズムが必要だ」 ヒディンク監督の率いるチームが、格上の相手と戦う時の「リアリズム」がどんなものかは、イタリアもよく知っている。PSVアイントホーフェンが、ここ2シーズン続けてチャンピオンズリーグでミランをどれだけ苦しめたかは、まだ記憶に新しい。なにしろ、ホーム&アウェー計4試合で、PSVは2勝1分1敗と勝ち越しているのだ。 そこで、そのもう一方の当事者であるミランのアンチェロッティ監督に、オーストラリアの戦い方を予想してもらった。 「非常に守備的な布陣をとることは間違いない。トッティ、ピルロにはマンマークを貼り付けてくるだろう。イタリアにサッカーをさせないことを最優先に、フィジカルにモノを言わせて潰しに来るはずだ。イタリアにとってはストレスのたまる戦いになるだろう。最も必要なのは、おそらく忍耐力だ」 イタリアは、1位で勝ち上がったとはいえ、GL3試合の内容は決して褒められたものではない。堅固な最終ラインに支えられた守備こそ安定しているものの、肝心の攻撃は精彩を欠いている。オーストラリアと同様、フィジカルが強くアグレッシブに当たってくるアメリカには、苦戦の末引き分け止まり。 実力的に、イタリアが明らかな優位にあることはいうまでもない。しかしイタリアには、地力で劣る相手に劣勢に立たされると冷静さを失い、本来の力を発揮できなくなる傾向がある。オーストラリアが「リアリズム」に徹してイタリアの攻撃の芽を詰み続け、ナーバスな精神状態に追い込むことができれば、意外な展開から勝機が巡ってくるかもしれない。4年前の韓国がそうだったように。□ 2)プレビューコラム:トッティと心中してもいいのか? ビッグトーナメントを戦うイタリア代表には、ファンタジスタのポジション争いを巡る論争がつきものだった。バッジョかデル・ピエーロか?デル・ピエーロかトッティか?デル・ピエーロかカッサーノか? ところが今回に限って、その手の論争は開幕前も開幕後も、影も形もない。カッサーノは招集段階で早々と脱落。デル・ピエーロは、故障明けで復調途上のトッティの穴を埋めて活躍するはずが、ユースチーム相手の練習試合ですら1対1の突破をしくじり続ける体たらくで、FW陣の序列でも最下位まで落ち込んでしまった。理屈の上では、シーズン中の出場時間が少なくバッテリー残量は十分だし、キャリア最後のワールドカップに賭ける意欲も並々ならないはず。この不調は何とも理解不能である。 だがそれ以上に問題なのは、リッピ監督が全幅の信頼を寄せてきたファンタジスタ、トッティの調子が期待したように上がってくれないことだ。オーストラリア戦を前にして、アズーリの周辺ではじまった論争は、ファンタジスタのポジション争いどころか、ファンタジスタ、つまりトッティをこの先も起用し続けるべきか、それとも外すべきかというもの。トッティと心中することになってもいいのか、というわけだ。 2月半ばの足首骨折から、100日あまりのブランクを経て復帰したトッティだが、ワールドカップ開幕時点のコンディションは「70%」(本人の弁)にとどまっていた。しかしリッピ監督は、勝負どころでの復調に賭けるためには、ピッチに立って試合勘とリズムを取り戻してもらう以外にないという判断から、あえて初戦からスタメンに起用し、チャンスを与え続けてきた。 ところがこの3試合を通して、そのプレーに期待した進歩はまったく見られない。運動量が少なく、マークを外してフリーでパスを受けられない上に、怪我を怖れてかフィジカルコンタクトで身体が逃げる傾向があるため、どうしてもボール喪失数が多くなる。90分フル出場したチェコ戦の後半、遠めから強いシュートを蹴らずにループシュートを繰り返し試みた(すべて無残な失敗に終わった)のは、筋力が十分に戻っていない証拠だ。 ここから先は、負ければそれでおしまいの一発勝負。チームのお荷物になっているエースを、もしかして復調するかもという希望だけでピッチに送り続ける余裕はもはやない。オーストラリアが挑んでくるに違いない肉弾戦に、トッティは耐えられるのか。エースの復活に賭け、トッティを核としたチーム作りを曲げなかったリッピ監督が、ついに大きな決断を迫られている。□ 3)試合:イタリア1-0オーストラリア<2006年6月26日、カイザースラウテルン> イタリア(4-4-2) GK:ブッフォン DF:ザンブロッタ、カンナヴァーロ、マテラッツィ、グロッソ MF:ペロッタ、ガットゥーゾ、ピルロ、デル・ピエーロ FW:ジラルディーノ、トーニ 得点:90+5' トッティ(イタリア・PK) 退場:50' マテラッツィ 4)レビュー:カテナッチョの真髄 「今回のアズーリは、僕がプレーしてきた中では間違いなく、一番攻撃的なチームだ。でも僕自身は、イタリアサッカーの伝統的な価値はディフェンスにあると思っているんだ。どんな困難に陥っても辛抱強く戦い、最後までゴールを守り抜くことができるチームは、世界にもそう多くはない。ワールドカップみたいなギリギリの戦いでは、2点、3点リードして試合を終えることの方がずっと少ない。1点のリードを最後まで守り切る力がないチームは、決してタイトルを勝ち取ることはできないんだ。攻撃的なチームでも、最後のところでは、イタリアの伝統的なメンタリティが必要ってことだよ。いくらカテナッチョと揶揄されようがね」 開幕の1ヶ月ほど前にインタビューしたアズーリのキャプテン、ファビオ・カンナヴァーロの言葉である。マテラッツィの退場で後半のほとんどを10人で戦わなければならなかったこのオーストラリア戦は、まさにアズーリが「イタリアサッカーの伝統的な価値」を見せつけた試合だった。 トッティをベンチに置きデル・ピエーロをスタメンに起用したイタリアは、11対11で戦った前半45分を通して、ピッチをワイドに使った攻撃の組み立てから再三決定機を創出するなど、これまでの3試合とは見違えるようなサッカーを見せた。そこにマテラッツィのレッドカード。好事魔多しとはまったくこのことである。 しかし、そこからのディフェンスはスペクタクルだった。最前線にFWひとりを残し、残る8人は自陣深くに秩序の整った陣形を敷いて相手を迎え撃つ。オーストラリア攻撃の鍵を握るFWヴィドゥカは、密着マークを続けるカンナヴァーロが常に先手を取ってクサビの縦パスをカット、ほとんどボールに触らせない。サイドに開いたボールには、必ず2人が飛び出して対応し、クロスを上げさせないだけでなく、しばしば挟み込んでボールを奪い取る。数少ないピンチもGKブッフォンが安定したセービングと電光石火の飛び出しですべて防いだ。ボールはほとんどオーストラリアが持っているのだが、得点の気配は最後までまったく漂わなかった。 劣勢に立たされて守りに守った後、唯一と言っていいカウンターのチャンスを生かしてゴールを奪い1-0で勝つ。しかも最後にもらったPKは、主審からの「プレゼント」。これぞカテナッチョの真髄である。攻撃サッカーを装ったところで、DNAまでは裏切れないということか。 実際、前線に3人のアタッカーを配した攻撃的な布陣で大会に臨んだアズーリだが、ここまでのところその攻撃に関しては、どちらかといえば期待を裏切る内容にとどまっている。しかしディフェンス堅固さにはまったく文句のつけようがない。なにしろ4試合でまだ失点は実質ゼロなのである(アメリカ戦の1点は、「失点」じゃなくザッカルドの「得点」)。これで攻撃陣まで調子が上がってきたら、このイタリアは一体どんなチームになるのだろうか。□ (2006年6月24-26日/初出:『El Golazo』) Posted: 土 - 5月 3, 2008 at 01:38 午前 |
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在イタリアのジャーナリスト・翻訳家、片野道郎のアーカイヴです。雑誌をはじめとする各種メディアに寄稿したイタリアサッカーを巡るテキストを、然るべき時間を置いた後に順次公開していきます。ご意見、ご感想は、webmasterアットマークtifosissimo.8m.comまで。
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